フィジーヒンディー語入門
☆フィジーヒンディー語とは
フィジーヒンディー語はヒンディー語及びインドの地方語を主体に、フィジー語、英語の語彙を取り入れた混成言語(ピジンヒンディー)です。フィジーのインディアン間では通常フィジーヒンディー語で話をします。また、フィジアンでもフィジーヒンディー語を理解する人も存在します。
☆フィジーヒンディー語の成り立ち
インドではヒンディー語だけではなく、それ以外にも地方によって様々な言葉が話されています。ヒンディー語の話者は現在のインドで約4割。あとはそれぞれの地方語が使われており、方言を合わせるとインドでは800種以上の言葉が話されています。そして、地域が異なればインド人同士でも意思の疎通が出来ないこともあるほど、言語間の隔たりは大きいと言われています。
さて、1879-1920年の間にインドから契約移民がフィジーにやってきましたが、彼らもインドの様々な地方から来ているため、はじめは意思疎通が困難でした。なので、彼ら移民の間の意思疎通のため、彼らの故郷の言語が混じりあいながら、共通語としてフィジーヒンディー語が成立していきました。さらには、フィジーで使われているフィジー語や英語の語彙を取り入れ現在に至っています。
以上のようにヒンディー語とフィジーヒンディー語は同じ言語ではありませんが、フィジーのインディアンはヒンディー語が理解できるようです(インド映画をよく見ているからでしょうか)。しかし、逆にインドのインディアンはフィジーヒンディーがあまり理解できないようです。
また、フィジーヒンディー語も地域によって異なるらしく、筆者の知り合いであるラウトカのインディアンはランバサのインディアンのヒンディーが分からないと言っていました。
☆フィジーヒンディー語入門
筆者は日本語によるフィジーヒンディー語の解説書を見たことがありません。ネットでも見つかりません。
それならばいっそ自分で書いてみるかとフィジーヒンディー語入門執筆に挑戦した次第です。至らぬ点はご容赦を。
1.あいさつ
巷の語学入門書だと、真っ先に発音のことが書いてある場合が多いですが、そこで面倒くさくなって先に進まない人もいると思われるので、先にあいさつぐらいを覚えてから先に進みましょう。
Namaste(ナマステ)…インドの挨拶として有名なナマステですが、意味は、「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」「さようなら」と、挨拶全般です。ナマステと言うと同時に胸の前で掌を合わせるのが正式な作法らしいですが、筆者はそれを日常生活でみたことがありません。
Namaskaaram(ナマスカラム)…ナマステと同意語。筆者の周りではナマステよりこちらが使われています。
RamRam(ラムラム)…これも挨拶の言葉。RamRamというのはヒンドゥの神様の名前です。筆者の周りではこれが一番多く使われます。なお、インディアンでもムスリムには使わない方が無難です。信仰する神様が違うので。
Salaam Waalekum(サラームワレクム)…ムスリムの挨拶。
インディアン同士は朝に職場で会った時など、握手しながら上記の言葉であいさつします。なお、女性はあまり握手はしません。
挨拶の次に来るのが
Kaise hai(カエセハエ、だが実際はケーセーと簡略して発音することが多い)…ご機嫌いかがHow are you?です。
これに対する返事としては、
achchha hai(アッチャーハエ、実際はアッチャエ)…調子いいですI’m good.
Thiik hai(ティークハエ、実際はティーケ)…元気ですI’m fine.
などが適当でしょう。
なお、別れる時はあまり挨拶をしていないようです。一応Fir milenge(フィルミレンゲsee you again)という言葉があるのですが、あまり使われてないようです。まだ英語でバイ(bye)という方が普通です。
ところで、「ありがとう」はDhanyaabaad(ダンニャバード)あるいはdhanbaad(ダンバード)です。しかし、日常生活でインディアンはあまりこの言葉を使わないようです(サンキューは時々ききますが)。こちらが何かしてあげて、お礼の言葉が無かったとしても、それはインディアンの文化なのでそういうものとして受け止めましょう。しかし、決して彼らが恩知らずというわけではありません。実際こちらが何かしてあげると、次会った時から対応がよくなります。
2.発音
フィジーヒンディー語は日本語や英語より発音が複雑です。
母音 a aa i ii u uu e ai o au
子音 ka kha ga gha cha ja jha Ta Tha Da Dha Na ta tha da dha pa pha ba bha ma ya ra la wa sha sh sa ha
このうち、特に見慣れないのが、aa等の母音が重なった発音と、bh等のhの入った発音です。
aaはアーです。伸ばすだけです。h は有気音とよばれるもので、例えばbhはclubhouseのように発音します。
本項では入門編ということで適宜カタカナ表記を単語の後ろに補足しますが、フィジーヒンディー語と日本語とはぴったり同じ発音ではないので参考程度にとらえてください。
3.文法
3.1語順
フィジーヒンディー語の語順は日本語と似ています。疑問文になっても語順は変化しません。しかし否定語が動詞の前に来る点は英語に似ています。主語を省略することも多く、目的語は他動詞の前に来ます。
例:Ham(私は) paani(水が) mangtaa(欲しい).→私は水が欲しい。主語を省略して、paani mangtaa だけでも通じます。
Tum(あなたは) paani(水が) mangtaa(欲しい)?→あなたは水が欲しいですか。音読では文末を上げます。日本語と同じです。
Ham(私は) paani(水が) nahii(ない) mangtaa(欲しい).→私は水が欲しくない。
さらに、時間に関する副詞は主語の後に入れます。
例:Ham(私は) aaj(今日) paani(水が) mangtaa(欲しい).→私は今日水が欲しい。
3.2名詞
本場のヒンディー語には名詞に男性名詞と女性名詞の区別があって大変煩雑ですが、フィジーヒンディー語にはそれがありません。また、日本語と同じく単数複数の変化がありません。
よく使われる名詞のいくつかを以下に紹介します。
数字…ek(エク:1),duii(デュイ:2),tiin(ティン:3),chaar(チャール:4),paanch(パンチ:5),chhe(チェ:6),saath(サース:7),ath(アス:8),nau(ノウ:9),das(ダス:10)
人…log(ログ:人people),adimii(アディミー:男,夫),aurat(アウラト:女,妻),bappaa(バッパー:お父さん),ammaa(アンマー:お母さん),larkan(ラルカン:子供),larkaa(ラルカー:少年,息子),larkii(ラルキー:少女,娘),bhaiya(バイヤ:兄弟),bahini(バヒニ,姉妹)
人体…muur(ムーラ,頭),kaan(カーン,耳),gataii(ガタイー,首),chaatii(チャーティー,胸),pet(ペト,胃),gorh(ゴル,脚),baar(バール,髪),aakhi(アキー,目),naakh(ナーク,鼻),haath(ハーツ,手),gathii(ガテイ,膝),daat(ダート,歯)
食べ物…khaanaa(カナ:食事),chawaal(チャワール:米),rotii(ロティー.ロティー),gos(ゴス:肉),murgii(ムルギ:鶏肉),machhri(マチェリ:魚),aaluu(アールー:じゃがいも),piyaaj(ピヤージ,たまねぎ),lesun(レスン,にんにく),chinii(チニー,砂糖),niimak(ニーマク,塩),fal(ファル,フルーツ),panii(パニー,水、雨)
日常生活…kap(カプ,コップ),gharii(ガアリー,時計),kursi(クルシ,椅子),chhaataa(チャーター,傘),kurta(クルタ,ブラウス),sat(サト,シャツ),paijama(パイジャマ,ズボン),ghar(ガール,家),chotta ghar(チョタガール,トイレ(直訳すれば小さな家)),dukaan(ドゥカーン,店),kaam(カーム,仕事),buk(ブク,本),bimaar(ビマール,病気)
時間(副詞としても使う)…aaj(アージ,今日),bihaan(ビハーン,明日),kal(カル,昨日),rojroj(ロジロジ,毎日),kabhikhabi(カビカビ,時々),abhi(アビ,今),sabere(サベレ,朝),raat(ラート,夜)
3.2代名詞
よく使われる代名詞をまとめました。
ham(ハム)…私
ham log(ハムログ)…私たち【hamの複数形】
hamaar(ハマー)…私の、私の物【hamの所有格及び所有代名詞】
tum(トゥム)…あなた
tum log(トゥムログ)…あなたたち【tumの複数形】
aap(アープ)…あなた(丁寧な表現)
tumaar(トゥマー)…あなたの、あなたの物【tumの所有格及び所有代名詞】
aapke(アープケ)…あなたの、あなたの物(丁寧な表現)【aapの所有格及び所有代名詞】
ii(イー)…これ、これら、(近い所にいる)彼、彼女、それ【距離の近い人や物を指す時に使う。男女の区別はない】
uu(ウー)…あれ、あれら、(遠い所にいる)彼、彼女、それ【距離の遠い人や物を指す時に使う。男女の区別はない】
ii logi(イーログ)…これら、この人たち【iiの複数形】
uu log(ウーログ)…あれら、あの人たち【uuの複数形】
iske(イスケ)…この(近い所にいる)彼の、彼女の、その【iiの所有格】
uske(ウスケ)…あの(遠い所にいる)彼の、彼女の、その【uuの所有格】
ham log ke(ハムログケ)…私たちの、私たちの物
tum log ke(トゥムログケ)…あなたたちの、あなたたちの物
3.3動詞
フィジーヒンディー語は時制等による動詞の変化があります。しかし、本場のヒンディー語よりははるかに簡略化されています。例えば、本場のヒンディー語では主語が男性の時と女性の時で動詞の語尾が異なりますが、基本的にフィジーヒンディー語ではその区別がありません。また、本場のヒンディー語では主語が一人称から三人称でそれぞれ動詞の変化がありますが、フィジーヒンディー語ではそれもかなり簡略化されています。
それでも、例外や不規則に変化する動詞もたくさんあって難しいので、ここでは深入りはせず、変化の基本例を示して次に進みます(時制に関してはここでは現在形、過去形、未来形と表記しましたが、本当はもっと複雑な概念になります。)
例:見る
不定詞形(辞書の見出しに使う):dekhnaa
現在形:dekhtaa(デカター)←naaをtaaに置き換える。
過去形:dekhaa(デカー)←naaをaaに置き換える。
未来形:dekhegaa(デカエガー)←naaをegaaに置き換える。
命令形:dekho(デコ)←naaをoに置き換える。
例;行く
不定詞形(辞書の見出しに使う):jaanaa
現在形:jaataa(ジャーター)←naaをtaaに置き換える。
過去形:gaayaa(ガーヤー)←不規則変化
未来形:jaaegaa(ジャーエガー)←naaをegaaに置き換える。
命令形:jaao(ジャーオ)←naaをoに置き換える。
基本的な動詞をいくつか紹介しておきます。
hai(ハエ)…です(is,are) 英語で言うBe動詞に近い働きをします。 文例:kava sawaaad hai(カバはおいしいです)
rahaa(ラハー)…です(was, were)
mangtaa(マンタ)… ほしい(want need)
karo(カロ)…やれdo。他の単語と結びついて動詞句を作る場合もあります。
baat karo…話せtalk。baat は言葉という意味で、言葉(baat)をする(karo)→話す、となっています。
wait karo…まてwait
khoro(カロ)…開けろopen
baito(バイト)…すわれsit
pio(ピヨ)…飲めdrink
khaao(カオ)…食べろeat
aao(アーオ)…来いcome
deo(デオ)…くれgive
achchha lage(アッチャラゲ)…好き(like)
よく使う言葉ですが、これは要注意です。これまで記載した文法法則だと、例えば「私は肉が好きだ」だと「Ham(私は) gos(肉) achchha lage(好き)」となりますが、実際は「hame(私にとって) gos(肉) achchha lage(好き)」となります。hame はham+後置詞meと考えてよいでしょう。
このように主語(人)と動詞による「…が…する」という一般的な構造のほかに、「…にとって…である」というタイプの構造もヒンディー語では珍しくありません。。
3.4形容詞・副詞
形容詞・副詞の使い方は日本語・英語と比べて独特ではありません。
よく使われる形容詞・副詞をまとめました。
garam(ガラム,熱いhot),
achchha(アチャ,よいgood nice,おいしい,OK,分かったI see 等使い道の広いことば)
thiik(ティーク,よいfine)
sawaad(サワード,おいしいteasty)
bafut(バフット,非常にvery)
motaa(モター,太いfat)
sust(ススト,怠惰なlazy)
lambaa(ランバー,背の高いtall)
chhota(チョータ,小さいsmall)
bas(バス,十分なenough)
thoraa(トラー,少しlittle small amount)
hiyaan(ヒヤーン,ここhere)
huwaan(フワーン,そこthere)
bhii(ビー,同じalso)
3.5後置詞
あなたの名前→tumaar(あなたの) naam(なまえ)
ですが、あなたのお父さんの名前、だとどうでしょうか?
あなたのお父さんの名前→tumaar(あなたの) bappa(お父さん) ke(の) naam(なまえ)
となります。
ここでは後置詞と書きましたが、日本語の助詞に近い働きをしています。英語でこれに近い働きをする言葉で前置詞というのがありますが、「ke」に相当するのが「of」になります。なお、keには他にも複数の意味をもっています。
基本的な後置詞をいくつか紹介しておきます。
ke(ケ)…の(of),へ(to),の後(after),一緒に(with),その他多数
例文:
Ham(私は) tum(あなた) ke(へ) buk(本を) dia(あげ) rahaa(ました) – 英訳:I gave the book to you
me(メ)…の中(in)
例文:
Ghar(家) me(の中) – in the house
se(セ)…から(from),より(than),に(to),その他多数
例文:
tum(あなた) se(から) paisaa(お金) lia(取った) – 英訳:took money from you
tum(あなた) se(より) barraa(大きい) – 英訳:bigger than you
pe(ペ)…に(at,on)
「テーブルの上」と言う場合、英語だとtable の前にonを置いて(on table)修飾するから前置詞、フィジーヒンディー(もちろん本場のヒンディーも)の場合はtableの後にpeを置いて(table pe)修飾するので後置詞と呼ばれています。
3.6疑問詞
英語であると疑問詞が使われると通常文から語順が変化しますが、フィジーヒンディー語では日本語と同じく変化がありません。
例:Uske naam konchii hai?(あの人の名前は何ですか。What is her name?)
Uske naam Ronika hai.(あの人の名前はロニカさんです。Her name is Ronika.)
基本的な疑問詞をいくつか紹介しておきます。
konchii(コンチ)…何(What)
kahaan(カハーン)…どこ(Where)
kon(コン)…誰(Who)
kab(カブ)…いつ(When)
kiseke(キセケ)…だれの(Whose)
kaise(カエセ)…どのような(How)
kitnaa(キトナー)…どれぐらい(How much,How many)
kitnaa bajaa(バジャー)…何時(What time)
kitnaa baje(バジェ)…何時(動作等の時間をきく場合What time an event take place)
kitnaa daam(ダーム)…値段はいくら
3.7接続詞
接続詞の使い方は日本語・英語と大きな違いはありません。
基本的な接続詞をいくつか紹介しておきます。
aur(アオル)…と(and)
ki(キ)…もしくは(or)
lekin(レキン)…しかし(but)
kaheki(カヘキ)…なぜなら(because)
4.会話で使えそうな文例
会話で使えそうな文例を集めました。今後も追加していきたいと思います。
hum bhii(ハンビー)…私も(me too)
fil se bole(フィルセボロ)…もう一度言ってください(say it again)
dhire dhire bole(ディレディレボロ)…ゆっくり話して下さい(say it slowly)
suno(スノ)…聞いて(listen)
hum samjhaa(ハムサムジャー)…理解しました(I understand)
hum nahii samjhaa(ハムナヒーサムジャー)…わかりません(I don’t understand)
ham nahii jantaa(ハムナヒージャンター)…しりません(I don’t know)
jii haan(ジーハーン)…はい(yes)
jii nahii…いいえ(ジーナヒーン)(no)
tum konchii mangtaa(トゥムコンチマンタ)…何が欲しいの(what do you want?)
tum konchii bola(トゥムコンチボラ)…なんて言ったの(what did you say?)
ii dekho(イーデコ)…これ見て(look at this)
ii samjhaao(イーサムジャオ)…これ説明して(explain this)
thoraa wait(トラウエイト)…ちょっと待って(wait a while)
hamaar pet bhar gais(ハマペトバールゲイス)…おなかいっぱいです(my stomach is full)
sache?(サッチェ)…本当?(really?)
juht(ジュット)…嘘(lie)
are!(アーレー)…あれま(Oh!)
ii kitnaa daam hai?(イーキトナーダームハエ)…これはいくらですか(how much is this?)
ii bafut daam hai(イーバウットダームハエ)…これは高い(it is expensive)
☆なお、さらにフィジーヒンディー語の単語を知りたければ、以下のサイトが参考になるでしょう。
Fiji Hindi – English Dictionary
http://www.oocities.com/fijihindi/FijiHindiEnglishDict.htm